自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性12(東京地裁 令和2年1月8日)

【事案の概要】

亡Aの長女である原告が、兄である被告Y1及びその妻である被告Y2に対し、亡A名義の平成26年4月22日付けの自筆証書遺言(本件遺言)が無効であることの確認を求めた事案。

本件遺言は亡Aが作成したものと認められる一方、本件遺言は、短いものであり、内容としても単純なものであるが、亡Aが平成21年にアルツハイマー型認知症と診断され、その後、徐々にアルツハイマー型認知症が進行して平成26年4月頃には見当識障害がみられ、本件遺言の内容が亡Aの従前の言動と大きく異なる理由を合理的に説明するに足りる事情が認められないとの認定がされた。

亡Aに遺言能力は認められるか。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年1月8日)。

【争点】

 亡Aに遺言能力が無く本件遺言が無効か。

裁判所は以下のように判示し、亡Aに遺言能力が認められないと判断しました。

1 Aのアルツハイマー型認知症について

「Aは、平成20年12月の時点での、記銘力障害があり、時間的見当識が障害され、簡単な計算はできるが、物盗られ妄想が発生していて、平成20年12月時点での長谷川式認知症スケールの点数は、21点であって、「平成20年12月の時点で、アルツハイマー型認知症に罹患し、その状態は初期であった。

  そして、平成26年11月には長谷川式スケールの点数が4点と重度の認知症を示唆する結果であるところ、Aのアルツハイマーが平成26年11月頃に急激に悪化したことをうかがわせる事情はないこと、平成26年4月頃のアリア碑文谷の記録には、夜10時頃に施設内を下はスカート、上はパジャマの恰好で歩いているなど見当識障が出現していることにてらすと、Aのアルツハイマー型認知症は徐々に進行していたと考えるのが相当である。」

2 本件遺言の内容について

 「本件遺言は、原告及び被告らに各3分の1ずつ財産を与える内容であるところ、同内容は先遺言及び先遺言をした頃に周囲に表明していたⅮの考えとは大きく異なるが、Ⅾが本件遺言の内容の遺言をする合理的な理由は見当たらない。」

3 結論

 「本件遺言は、短いものであり、内容としても単純なものであるが、Ⅾが平成21年にアルツハイマー型認知症と診断され、その後、徐々にアルツハイマー型認知症が進行し(平成26年11月には長谷川式認知症スケールの点数が4点となるほど進行し)、平成26年に4月頃には見当識障害がみられ、本件遺言の内容が従前と異なる理由を合理的に説明するに足りる事情は見当たらないことに照らすと、Ⅾは本件遺言をした際、本件遺言の内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足りる能力有していなかったと認めるのが相当である。」

【判決のポイント】

 本判決においても、裁判所は、遺言能力の判断に際して、客観的資料の他、遺言の内容、遺言についての遺言者の意向(本件では、本件遺言と先遺言の内容が異なる合理的理由が遺言者の行動にはないことを重視していると考えられます。)等を総合考慮するという従来からの判断方法に従って結論を導いたものと考えられます。

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