自筆証書遺言の有効性①(東京地裁 令和3年7月16日)

【事案の概要】

Aの死亡後、「私のマツンヨンとよちょきんは子Bに上げます」という自筆証書遺言が発見された。当時Aは、右手親指の障害により容易に文字が書けなくなっており、要介護3の認定も受けていた。Aの自筆証書遺言は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和3年7月16日)。

【争点】

1 遺言者が文字を容易に書けなくなっていたかどうか

裁判所は以下のように判示し、遺言書が遺言者の自書によるものと認めました。

「証拠(甲20の1・2,33)及び弁論の全趣旨によれば,Aは,本件遺言書の作成年月日である平成26年8月21日の1週間前頃,Eに宛てて手紙を書いているところ,同手紙には,「昨日を俄ありがとう」「昨日どうもありがとう」「すぐ送ります」などと記載されており,一部判読不明な箇所もあるが,記載された文字に震えはないことが認められ,このことからすれば,Aは,本件遺言書の作成年月日頃,十分に文字を書くことができたと認められる。」

「本件遺言書の作成年月日頃,Aは文字を書くことができたところ,筆記具を握って書字する力があれば,印鑑を握って押す力もあったと認められるし(本件遺言の作成年月日の約3か月後の平成26年11月13日にAの主治医であるF医師〔以下「F医師」という。〕が作成した主治医意見書によっても,Aの利き腕である右上肢に麻痺はなく,両上肢に軽度の筋力低下があったにすぎないし,この頃,Aは食事摂取の介助も不必要な状態であったと認められる〔甲5〕。),このことを疑わせるような事情は見当たらない。」

2 遺言者の遺言能力

裁判所は以下のように判示し、遺言者の遺言能力を認めました。

(主治医意見書)

「遺言をするに当たっては,遺言者に,遺言の内容を理解して判断することができる能力(遺言能力)が必要となるところ,Aが本件遺言をした平成26年8月21日に最も近接した介護認定を受けるに際して作成された主治医意見書の内容は,上記(1)ウのとおりであり,その作成時点は同年11月13日(本件遺言作成時点の約3か月後)である。遺言の内容を理解して判断することができる能力を失っていたかの判断に当たっては,「日常の意思決定を行う認知能力」及び「自分の意思の伝達能力」が参考になるといえるところ,Aは上記時点では,いずれも「いくらか困難」と判定されている。

「本件遺言の内容が,「マツンヨン」(マンションと記載したと推測される。)を被告Y1にあげる,預貯金を3人の孫に「当分」(等分の誤字と推測される。)にあげるという内容であって(基本的事実(3)ア),比較的単純なものであるといえることを併せ考えると,本件遺言当時,Aが本件遺言をする能力を失っていたと認めることはできない。」

(HDS―R 改訂長谷川式簡易知能評価スケール)

「本件遺言の約2週間後にAに対して実施されたHDS-Rは30点満点中12点であり,この頃,Aにおいては認知症の進行が認められていたところではあるが(上記(1)ウ),HDS-Rは,意思決定能力,判断能力の検査ではなく,また,検査時点の体調等によっても点数は左右されると考えられることなどからすれば,上記のAのHDS-Rの点数はAの遺言能力に関する上記認定を左右するものではない。」

【判決のポイント】

遺言の有効性を争う裁判では、介護認定における主治医意見書とHDS-Rが証拠として提出されることが多いです。上記裁判例の認定は、遺言の有効性を検討する際の目安になるものと考えます。

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