自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性⑨(東京地裁 令和2年11月9日)

【事案の概要】

A(以下「亡A」という。)の死亡後、A作成の遺言書(以下「本件遺言書」という。)につき、Aに遺言能力が無かったとして,相続人の一人が本件遺言の無効確認を求めた事案です。

本件遺言作成時の亡Aは、94歳と高齢であり、アルツハイマー型認知症に罹患していました。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容しました。(東京地裁 令和2年11月9日)。

【争点】

遺言者亡Aの遺言能力の欠如により本件遺言が無効か。

裁判所は以下のように判示し、本件遺言作成時(平成27年11月11日)のAの遺言能力は欠如していると判断をしました。

1 Aのアルツハイマー型認知症の症状の症状について

「Aは,平成27年9月1日時点において,アルツハイマー型認知症に罹患しており,平成29年3月まで継続して同症状に応じた薬の処方が継続してされていた。

そして,新宿区作成のAの介護認定情報によれば,Aは,平成27年8月22日ないし同年9月1日時点において,記憶があるのは前日のことだけであり,短期記憶ができず,物盗まれ妄想があり,当時実際には夏であるのに,秋と答え,施設ではなくホテルに入居していると思っており,その当時の季節や所在場所が理解できていなかった。

行動面では,毎日,施設の廊下を徘徊し,鍵をかけている他人の部屋に入ろうとし,週に2,3回,本件施設の他人の部屋に入って物を盗ってきて自分の部屋にしまっていた。

さらにAには,平成27年9月以降も,物盗られ妄想,徘徊,尿失禁,状況に合わない不適切な着衣等,アルツハイマー型認知症の症状が継続して見られた。

以上のAの症状からすると,本件遺言作成当時,Aの判断能力は相当低下していたものと認められる。」

2 本件遺言内容の複雑性について

「本件遺言の内容は,相続人によって取得することになる遺産の種類が異なっている上,相続人が取得することになる本件共有マンションの共有持分割合が3名とも異なっており,全部の遺産を一人の相続人に相続させる等の遺言と比較して,より複雑な面を有する。」

3 判断

「以上のとおり,本件遺言作成時のAの94才と高齢で,アルツハイマー型認知症であり,本件遺言作成の前後には短期記憶に欠けるところがあり,徘徊,物盗られ妄想,尿失禁,不適切な着衣等の症状が見られ,本件遺言の内容が複雑な面を有すること等の事情を総合すれば,Aに遺言能力はなかったものと認められ,本件遺言は無効である。」

【判決のポイント】

本判決においても,裁判所は遺言能力の判断に際して,客観的資料の他,遺言書の内容,遺言者の心身の状況,健康状態,遺言についての意向等を総合考慮するという従来からの判断方法に従って結論を導いたものと考えられます。

本件で,裁判所は,客観的資料として,Aがアルツハイマー型認知症であるとの医師の診断書・新宿区作成のAの介護認定情報を用いました。

そして,本件遺言内容は複雑であること,心身の状況等を総合考慮し,遺言能力を判断したものと思われます。

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