自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性⑩

【事案の概要】

 亡A名義の「ゆいごんしょ 私のざいさん(夫Bのそうぞくしたざいさんもふくむ)すべてをYにそうぞくさせる。 平成22年11月8日 大田区(以下省略)A」という自筆証書遺言が発見された。当時Aは、主治医から典型的なアルツハイマー病であると診断されていた。また,介護保険における要介護4に認定されていた。Aの自筆証書遺言は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年3月23日)。

【争点】

1 亡Aの遺言能力の有無

 裁判所は以下のように判示し、本件遺言作成時における亡Aの遺言能力を認めませんでした。

「亡きAは,平成21年2月に脳梗塞で入院し,退院後は車いす生活であった。

亡Aは,平成21年2月25日頃,糖尿病,高脂血症の治療のため入院していた京浜病院で長谷川式簡易知能評価スケールは0点であった。そのMMSEにおいて亡Aは,検査当時の日付も回答することができなかった。

京浜病院のAの主治医は,平成21年2月26日,診療及びMMSEの結果を受け,亡Aは典型的なアルツハイマー病であると診断した。り,MMSEにおいて,総得点は30点中13点見識職障害と短期記憶想起障害,構成失行も認められるとして,主治医司より典型的アルツハイマー病であると診断した。」

「亡Aは,平成21年8月に,大田区の調査を受け,介護保険における要介護4に認定された。」

「アイメディカルクリニックのE医師は,平成25年1月9日,亡Aについて,脳梗塞後遺症及び脳血管性認知症と診断し,加齢に伴って徐々に体力が減少し,認知能力の低下をきし現在に至るとしたうえで,日々の意思疎通ができず,物の名前がわからない短期記憶・長期記憶もできない見当識の障害が高度である,他人との意思疎通ができない,社会的手続きや公共施設の利用ができない,脳の萎縮又は損傷が著しいとして,亡きAの判断能力判定において,自己の財産を管理処分することができず,後見相当であるとの診断をした。」

「本件遺言書は,被告が亡Aに対し,被告に財産を残して欲しいとして遺言書の作成を持ち掛け,連日にわたり合計10時間もの練習をさせて完成させたものであり,Aが自主的に作成をこころみたものではない。」

「以上を総合的に考慮すると,平成22年11月に本件遺言書が作成された時点で,亡Aにおいて,遺言する能力を欠いていたものと認められる。」

【判決のポイント】

 本件では,遺言の有効性判断につき,従来通りの判断基準を用いていると考えられます。

 また,遺言者の認知症の程度が重篤であると考えられる場合においても遺言書作為の経緯等が遺言能力の判断において考慮されているものと考えられます。

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