自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性20(東京地裁 令和2年1月28日)

【事案の概要】

本件は、原告らの父である被相続人(以下「A」という)が被告を遺言執行者として指定した公証人f(以下「公証人f」という。)作成にかかる平成29年第65号遺言公正証書による遺言(以下「本件遺言」という。)について、Aに遺言能力がなかった旨主張する原告らが、被告に対し、本件遺言無効であることの確認を求めた事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年1月28日)。

【争点】

Aの遺言能力の有無

【裁判所の争点に対する判断】

1 前提事実ついて

平成29年2月13日、f公証人は、本件遺言書を作成した。

(2) 本件遺言書の内容は、概ね以下の通りである。

ア Aが所有する本件不動産を相続人である原告らに3分の1の割合で相続させる。

イ 本件不動産の本件賃貸借契約における賃貸人の地位を原告らに均等 の割合で承継させる。

ウ 原告らは、本件賃貸借契約に関して及び本件不動産に関する(ア)から(ウ)を内容とする(略)を負担する。

エ 原告らは、Aが死亡するまで1カ月30万円を支払わなければならない。

オ 被告を遺言執行者に指定する。

2 Aの精神上の障害の有無及び程度

(1)客観的資料

ア Aは、平成24年6月22日にかかりつけ医を受診した際、「健忘症あり」、同年7月9日には、「物忘れがつよい。」「見当識 日付×」、「短期記憶×」、平成25年10月7日には「認知症」と記載され、同日頃には、メマリーを処方された。

イ Aは、同病院でうけたHDS-Rの件検査は、平成24年7月9日が24点、平成27年9月18日が15点であった。

ウ Aは、本件遺言書の作成にあたり、平成27年9月18日、公証人に  対し、同病院で交付を受けた「軽度の認知障害あり、HDS-R15点」等と記載された診断書を見せた。

エ Aの主治医であったk医師は、診察日を平成26年1月7日とする介護 保険用の主治医意見書において、「アルツハイマー型認知症、認知症の進行が著しい、短期記憶に問題あり、日常生活の意思決定を行うための認知能力は、いくらか困難、自分の意思伝達能力は、具体的要求に限られる。」などと記載した。

オ k医師による最終診察日を平成28年11月9日とする意見書におい て、「認知症、妄想があり、介護に困難を生じている、認知障害あり病識なく理解が困難となっている、短期記憶に問題あり、日常生活を行うための認知能力には見守りが必要、自分の意思伝達能力は、具体的要求に限られる、などと記載した。

カ Aは、平成29年9月27日gクリニック老年精神科の医師より、アルツハイマー型認知症で認知症は高度に進行していると診断されたうえ、見当識障害は高度、他人との意思疎通はできない、記憶力は問題が顕著、脳の萎縮又は損傷が著しいなどを根拠に判断能力は、後見相当との意見を付された。

  • その他の事情

本件遺言書の内容は、原告らに本件不動産を相続させ、被告に一定の財 産を相続させるという単純なものではなく、原告らに本件不動産を相続させた上、原告らがAに対してA死亡までの1か月30万円を支払う他、本件賃貸借契約に関する原告らに課す負担の記載がある。

このような本件遺言書の内容は単純ではなく、少なくとも中等度ないし 高度のアルツハイマー型認知症であったAが、その内容を正確に知ることが出来ないものだったということが出来る。

  • 結論

Aは、本件遺言作成当時、遺言能力を有していなかったと認められる。

【判決のポイント】

本件遺言書は、公正証書遺言ですが、公正証書遺言であっても、Aの診断書、HDS-Rの結果、介護保険用の意見書、本件遺言書の内容を総合的に考慮して遺言能力を判断した判決であると考えられます。

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