オフィス・テナント・店舗にまつわる問題点について、説明します。
このページの目次
1.居住用賃貸不動産と同じ点
(1)賃貸借契約であること
居住用物件であっても、オフィス・テナント・店舗であっても、契約形態は、民法上の通常の賃貸借契約になります。
そのため、オフィス・テナント・店舗の賃貸借契約にも民法の賃貸借契約に関する条文の適用を受けることに変わりはありません。
(2)借地借家法の適用を受けること
オフィス・テナント・店舗も民法上の賃貸借契約であることに変わりがない以上、当然のことながら、借地借家法の適用を受けることになります。
すなわち、賃借人が一般消費者ではなく、オフィス・テナント・店舗の事業者であったとしても、借地借家法に基づく保護(賃貸人による中途解約や更新拒絶の制限等)を受けることになりますので、賃貸人もこの点を踏まえた上で賃貸借契約を結ぶことが重要といえます。
2.居住用不動産と違う点
(1)賃料が高額であること
オフィス・テナント・店舗の場合、居住用物件に比べて、毎月の賃料が高額です。
そのため、賃料の滞納が続く場合、本来であれば得られたであろう賃料額相当の損害として、毎月何十万円、何百万円といった損害が発生することになります。
(2)造作が施されているケースが多いこと
特にテナント・店舗では設備、内装といった造作が施されているケースが多いため、明渡後の原状回復費用も高額となるケースが多いといえます。
(3)賃借人が事業者、法人であること
オフィス・テナント・店舗の場合、賃借人である事業者、法人が突然事業を停止し、破産申立ての準備に入ることが多いといえます。この場合、交渉の相手方が破産事件の担当弁護士や破産管財人になりますので、物件の明渡も破産手続の中で実現をしていくことになります。
3.弁護士への早期の相談のメリット
今までご説明をしてきたとおり、オフィス・テナント・店舗の賃料滞納は居住用物件に比べて賃料が高額であるため、時間の経過による損失(本来得ることができたはずの賃料収入に相当する損失)が拡大する傾向にあります。
そして、造作の撤去や事業者・会社の破産といったオフィス・テナント・店舗に特有の問題もありますので、早期に対応できたほうが対処もしやすいといえます。
オフィス・テナント・店舗の賃料滞納が発声した場合には、早期にご相談いただくことをお勧めします。
4.弁護士に相談・依頼した後の流れ
オフィス・テナント・店舗であっても、民法の賃貸借や借地借家法の規定が適用されることになります。
そのため、弁護士に相談・依頼をした後の流れについても、基本的には、居住用物件と同様になります。
以下、具体的にご説明します。
(1)賃料催告及び解除通知
賃料滞納が3か月以上発生した場合、賃借人に対し、相当期間を定めて賃料の支払いを催告した上で、その期間内に支払がない場合には賃貸借契約を解除する旨の通知をすることになります。
そして、相当期間内に賃料の支払いがなく延滞が続く場合には、その相当期間が経過した時点で賃貸借契約は債務不履行解除されます。
(2)訴訟提起
賃料催告及び解除通知の到達から相当期間が経過したにもかかわらず、賃料の延滞が続き賃貸物件からの退去もなされない場合には、建物明渡請求訴訟を提起することになります。
この訴訟では、建物明渡請求だけではなく、滞納賃料の請求も加えます。
そして、賃貸借契約上の保証人や連帯保証人がいる場合には、これらの者も賃借人とともに被告に加えることになります(通常、法人の代表者やその親族が保証人になっていることが多いです)。
その後、裁判所において裁判が開かれますが、被告側が請求の内容を争わない場合(被告側が欠席した場合を含む)には裁判が終結します。
そして、判決言渡期日が指定され、同期日において賃貸物件の明渡しと滞納賃料の支払いを命じる判決が言い渡されることになります。
(3)強制執行(催告)
建物明渡しを命じる判決が言い渡され、その判決が確定してもなお賃借人が明渡しをしない場合には、賃貸人は建物明渡しを求める強制執行の申立てをすることができます。
強制執行の申立て後の手続としては、まず催告手続の実施を行い、次に強制執行の実施(断行)を行うという流れになります。
一つ目の手続である「催告」とは、裁判所の執行官が現地に行き、明渡期限を定めた上で任意に建物を明け渡すよう求めることをいいます。
催告手続では、明渡期限等を記載した公示書を建物内に掲示することになります(賃借人が不在であっても、開錠して建物内に公示書を掲示します。)。
(4)強制執行(断行)
任意に建物の明渡しがなされなかった場合には、最終的に強制執行(断行)によって建物の明渡しを実現することになります。
具体的には、建物内に賃借人がいる場合には、執行官が強制執行を実施する旨を説明した上で、賃借人及び生計を同一にする家族等の荷物(目的外動産)を建物から運び出します。
これによって、賃借人の建物に対する占有が解かれ、建物明渡しが完了することになります。
なお、運び出された荷物(目的外動産)は執行官が指定する倉庫等の保管場所に一定期間(通常1か月ほど)保管されます。そして、期間内に賃借人が引き取りにこない場合には、その荷物(目的外動産)を売却または廃棄することで処分することになります。
(5)事業者の破産との関係
オフィス・テナント・店舗といった事業用物件の場合、明渡しが未了であるにもかかわらず、突然賃借人の代理人弁護士から破産の準備に入る旨の通知が送られてくるケースがあります。
このようなケースでは、賃借人の代理人弁護士(破産申立て前)や破産管財人(破産申立て後)による任意の明渡しがなされる可能性もありますが、その時期の見通しが立たないのが現実です。
そのため、このようなケースにおいても、通常通り(1)~(4)の流れで対応しておくべきといえます。