建物明渡しの断行の仮処分について

1.明渡断行の仮処分とは

所有する建物を権限なく占拠する者がいる場合、本来であれば、まずは建物明渡請求訴訟を提起し、判決を得た上で、建物明渡しの強制執行を行うことになります。

もっとも、上記のように判決を得て強制執行により不法占拠状態を排除するまでには一定の時間を要しますので、場合によっては、これらの手続をとっている間にも建物所有者が当該物件を使用しなければならない緊急の必要性が生じることも考えられます。

このようなケースにおいて、建物明渡請求訴訟を提起して強制執行をする前に、不法占拠者の占有を強制的に排除する方法が、明渡断行の仮処分になります。

明渡断行の仮処分は、当該物件を使用する緊急の必要性がある場合に、早期に不法占拠者の占有を排除できるというメリットがある手続ということができます。

以下、明渡断行の仮処分の要件と手続について、説明します。

2.被保全権利

明渡断行の仮処分が認められるためには、まず、被保全権利が存在することが必要になります。

被保全権利はいくつか種類が考えられますが、不法占拠者がもともと賃借人であり、賃料滞納等により賃貸借契約が債務不履行解除された結果として不法占拠状態になったというケースでは、賃貸借契約終了に基づく建物明渡請求権になります。

他方、最初から何らの占有権限もなく建物を不法に占拠したというケースでは、被保全権利は所有権に基づく建物明渡請求権になります。

3.保全の必要性

明渡断行の仮処分が認められるためには、次に、保全の必要性が存在することが必要になります。

具体的には、「争いがある権利関係について債権者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるためこれを必要とするとき」であることが必要となります(民事保全法第23条2項)。

明渡断行の保全の必要性は、各事案における個別事情を基礎として総合的に判断されることになりますが、具体的には、①不動産の明渡しが遅延することによって債権者が受ける損害の内容・程度と、②仮の明渡しを求める緊急の程度を総合考慮して決定されるものといえます。

そして、①債権者が受ける損害の内容・程度に関しては、債権者による目的物の処分等の必要性、事後的な金銭賠償による補填可能性のほか、仮処分により債務者が受ける不利益の内容・程度、債務者の行為の違法性・不当性が重要な考慮要素になるものと考えられます。

他方、②明渡しを求める緊急性の程度については、損害の発生・拡大を避けるため目的物の処分等を要する時期のほか、仮に訴訟を提起したときに判決を得るまでに見込まれる期間、明渡断行の仮処分を申し立てた経緯等が重要な考慮要素になるものと考えられます。

4.審理の流れ

明渡断行の仮処分では、仮の地位を定める仮処分に該当するものであるため、口頭弁論又は債務者が立ち会うことができる審尋期日を経るものとされています(民事保全法第24条4項本文)。

ただし、実務上は、口頭弁論が開かれることはほとんどなく、主に審尋によって審理が進められることが通例とされているようです。

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