遺留分侵害額請求と消滅時効

1.遺留分侵害額請求ができる期間

遺留分侵害額請求権を行使できる期間には制限があります。

具体的には、「遺留分侵害額の請求権は、遺留分権利者が、相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する」とされています(民法第1048条1項)。

また、「相続開始のときから10年間を経過したときも、同様とする」とされています(民法第1048条2)。

例えば、遺留分権利者である被相続人の子が、被相続人が死亡したこと及び遺言により自身の遺留分を侵害する遺贈が存在することを知った場合、その時点から1年以内に遺留分侵害額請求をしなければ、当該遺留分侵害額請求権という権利が時効消滅することになります。

また、仮に遺留分権利者である被相続人の子が、自身の遺留分の侵害する遺贈を知らなかったとしても、被相続人が死亡してから10年が経過した場合には、遺留分侵害額請求権は消滅することになります。

2.1年間の消滅時効の起算点

遺留分侵害額請求権は、遺留分権利者が相続開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを「知った時」から1年間行使しなければ時効消滅します。

では、この1年間の消滅時効の起算点である「知った時」とは何を指すものなのでしょうか。

この点、遺留分侵害額請求権の起算点である「知った時」とは、①遺留分権利者が相続開始及び遺贈や生前贈与があったことを知っているだけでは足りず、②その遺贈や生前贈与が自身の遺留分を侵害するものであることも知った時点を指すとされています(最高裁判所昭和57年11月12日判決)。

そのため、例えば被相続人が生前贈与をしていたことを知っているが、相続財産全体額が不明であり自身の遺留分が侵害されていることを知らなかった場合には、消滅時効は進行しないものと考えられます。

また、相続財産全体額を誤信しており、上記のような生前贈与により自身の遺留分が侵害されていないと誤信していた場合にも消滅時効は進行しないものと考えられます。

3.遺留分侵害額請求権の行使方法

遺留分侵害額請求権は形成権という権利であり、遺留分権利者の一方的な意思表示により行使をすれば足りるとされています。

具体的には、以下の通りとされています。

(1)遺留分侵害額(金額を)具体的に明示する必要があるか?

遺留分侵害額請求権の意思表示の内容としては、遺留分を侵害されたことによる侵害額を請求するものであるという意思が表示されていれば足り、具体的な侵害額(金額)を明示する必要はないとされています。

(2)訴えによる必要があるか?

遺留分侵害額請求権の行使は、訴えの方法による必要はないとされています(民法改正前のものとして、最高裁判所昭和41年7月15日判決)。

(3)遺産分割協議の申入れが遺留分侵害額請求権の行使に当たるか?

本来遺産分割協議の申入れと遺留分侵害額請求権は、本来別の行為になります。

もっとも、例えば被相続人が一部の相続人に対して「遺産の全てを相続させる」旨の全部包括遺贈の遺言を残していた場合、当該遺言の効力を争わないのであれば、遺産分割協議の余地はないはずです。

そうであるにもかかわらず、その他の相続人である遺留分権利者が「遺産分割協議を申し入れます」との意思表示をした場合には、その申入れには遺留分侵害を理由とする権利主張の意思表示が含まれていると考えられています(民法改正前のものとして、最高裁判所平成10年6月11日判決)。

4.遺留分権侵害額請求権を行使した後の金銭債権の消滅時効

平成30年の民法改正によって、遺留分を侵害された相続人は、遺留分侵害額に相当する遺留分侵害額請求権という金銭債権を行使できると定められました。

この遺留分侵害額請求権という金銭債権も、一般的な金銭債権と同様に民法総則に規定される消滅時効の適用を受けることになります。

そのため、一度遺留分減殺請求権を行使した後も消滅時効にかかるリスクがあることに注意をする必要があります。

5.相続開始から10年が経過した場合

「相続開始のときから10年間を経過したときも、同様とする」とされています(民法第1048条2項)。

この規定は「除斥期間」を定めたものとされています。

実際にあったケースとして、被相続人が死亡してから10年以上経過した後、一部の相続人に対して「遺産の全てを相続させる」旨の全部包括遺贈の遺言が発見されたということがありました。

同事案において遺産分割協議が未了であったとすれば、受遺者は同遺言により遺産の全てを相続することになりますが、他方、遺留分権利者である相続人は民法1048条2項により遺留分侵害額請求権の行使をすることができないことになるものと考えられます。

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