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1.遺産分割とは
相続が開始すると、相続財産は相続人の共有状態(いわゆる遺産共有)になります(民法第898条)。
この共有状態を解消するため、財産の内容や各相続人のおかれた状況などの諸事情を考慮して相続財産の分け方を具体的に決めることを遺産分割といいます(民法第906条)。
この点、相続による遺産共有とは別に、一般的な共有(民法第249条以下)という概念もあります。
この一般的な共有関係を解消するための手段としては共有物分割訴訟という制度がありますが、遺産共有を解消するためには遺産分割によらなければならないとされています(最高裁判所昭和62年9月4日判決)。
2.遺産分割の対象となる財産
代表的なものとして、以下の財産が挙げられます。
- 不動産
遺産分割の対象となります。 - 預貯金
遺産分割の対象となります(最高裁判所平成22年10月8日判決等) - 株式、国債、投資信託
遺産分割の対象となります最高裁判所平成26年2月25日判決等) - 現金
遺産分割の対象となります(最高裁判所平成4年4月10日判決)。
3.被相続人の債務について
(1)不可分債務
例えば、不動産売買契約を締結した後に被相続人が死亡した場合、共同相続人には不動産を引き渡す債務や登記手続をなすべき義務があります。
これらの不可分債務については、共同相続人に不可分的に帰属し、各相続人は全部につき履行すべき義務があります。
(2)可分債務
金銭債務などの可分債務については、各相続人は、相続分に応じて分割された範囲で債務を負担することになります(大決昭和5年12月4日)。
(3)連帯債務
連帯債務については、各共同相続人は、相続分に応じて分割された範囲でのみ債務を負担します(つまり、債務全額について、連帯して支払う義務はありません)。
この場合、各相続人は、その負担部分について、他の連帯債務者と連帯して債務を負うものとされています(最高裁判所昭和34年6月19日判決)。
4.遺産から生じた果実(収益)について
例えば、被相続人が死亡後に遺産である不動産から賃料等の収益が発生することがあります。
このような相続開始後に遺産から生じた果実が遺産分割の対象になるかという問題があります。
この点、原則として、賃料のように遺産から生じた果実については、遺産分割の対象にはならないとされています。
そのため、遺産分割の結果として相続人の一人が不動産を相続したとしても、被相続人が死亡してから遺産分割協議が成立するまでに発生した賃料は、各相続人が相続分に応じて確定的に取得することになります(最高裁判所平成17年9月8日判決)。
ただし、遺産から生じた果実を遺産分割の対象とすることが禁止されるわけではありませんので、実務上は相続人全員が合意すれば、これらの果実も遺産分割の対象に含めて協議することが可能です。
5.寄与分とは
共同相続人のなかに被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者があるときは、相続開始からその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、①寄与分が控除された相続財産に関する相続分と②寄与分を合計した金額をその相続人の相続分とします。この制度を寄与分といいます(民法第904条の2)。
6.寄与分の具体例
寄与分の具体例として、以下のものが挙げられます。
- 「被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付」(民法第904条の2 1項)
被相続人の家業である農業に従事していた場合 - 「被相続人の療養看護」(民法第904条の2 1項)
配偶者による通常の協力扶助義務や子の親に対する通常の扶養の程度を超えて療養看護をしていた場合 - その他の方法
上記の「被相続人の事業に関する労務の提供または財産上の給付」や「被相続人の療養看護」は例示に過ぎず、その他の方法により被相続人の財産の維持または増加への寄与した場合にも寄与分は認められます。
7.寄与分の申立て
寄与分は、原則として、共同相続人による協議により定められます。
もっとも、共同相続人による協議がととのわない場合には、寄与分を主張する相続人の申立てにより、家庭裁判所が寄与分を定める審判をすることになります(民法第904条の2 2項)。
なお、この寄与分を定める処分の審判申立ては遺産分割の前提問題になりますので、遺産分割審判が係属していることが必要になります。
8.特別受益とは
共同相続人のなかに被相続人から遺贈や生前贈与を受けた者があるときは、相続開始時点の遺産に遺贈や生前贈与を加算したものを相続財産とみなし、①その加算された相続財産に関する相続分から②遺贈や生前贈与を控除した金額をその相続人の相続分とします。この制度を特別受益といいます(民法第903条1項)。
9.特別受益の具体例
特別受益の具体例として、以下のものが挙げられます。
- 遺贈
婚姻や養子縁組、あるいは生計の資本としての贈与に限らず、特別受益に当たります。 - 婚姻や養子縁組のための生前贈与
婚姻や養子縁組の際の持参金、支度金、結納金などの贈与が挙げられます。
他方、挙式費用については、他の相続人も同様の費用の贈与を受けていた場合には特別受益に当たらないとされています(名古屋高裁金沢支部平成3年11月22日判決) - 生計の資本としての生前贈与
居住用不動産の贈与や事業資金の贈与が挙げられます。