明渡断行を行った後の原状回復について

1.原状回復とは

原状回復とは、賃借人が建物を明け渡す際に、その建物を文字通り原状に回復しなければならないという義務になります。

ただし、この賃借人が義務を負う原状回復の範囲としては、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・棄損を復旧する」ためのものに限られます。

つまり、賃借人としては、退去時に、

  1. 通常の使用により生ずる建物の損耗(経年等による損耗)について補修・修繕する義務はなく、
  2. 通常の使用により生じる損耗以外の損耗(経年で発生したものではない損耗)についてのみ補修・修繕する義務を負うということになります。

そのため、この①と②の線引き、つまり退去時の室内の損耗がいわゆる「通常損耗」と評価されるものなのかどうかが問題になってきます。

2.原状回復費用として請求できる範囲

具体例として、次のような費用について、説明します。

(1)畳の表替費

原則として原状回復費用に当たらないことが多いと考えられます。

ただし、飲み物をこぼした跡がある、不注意により雨が吹き込んだことによる変色などは借主の落ち度がある場合には、原状回復費用に当たることが多いといえます。

(2)フローリングのワックスがけの費用

原則として原状回復費用に当たらないことが多いと考えられます。

ただし、落書きや、借主の不注意による雨の吹き込み、清掃しても除去できない冷蔵庫下のサビ跡など、借主の落ち度がある場合には、原状回復費用に当たることが多いといえます。

(3)結露から発生した壁や天井のカビ

結露を貸主に通知もせず、かつ拭き取るなどの手入れを怠っているなど、借主の落ち度がある場合には、通常損耗を超えるものとして、原状回復費用に当たることが多いと考えらえます。

(4)壁紙に染み付いたタバコの臭い

通常損耗を超えるものとして、原状回復費用に当たることが多いものと考えられます。

(5)ペットによるひっかきキズや臭い

通常損耗を超えるものとして、原状回復費用に当たることが多いものと考えられます。

3.賃貸借契約の保証人に対する請求

賃借人の賃料未払いが発生し、最終的に強制執行(断行)により荷物の搬出等がなされて建物明渡しが完了するようなケースもあり得ます。

このような場合であっても、当然賃借人は物件の原状回復義務を負うことになりますが、賃借人本人がこの義務を果たすこと(賃借人本人に補修・修繕費用を支払ってもらうこと)は事実上困難といえます。

そこで、賃貸人としては、賃貸借契約の保証人に対して、原状回復費用の請求をすることが考えられます。

一般的な賃貸借契約では、保証人による保証の範囲をその契約から生じる債務全般としています。

そして、建物明渡し後の原状回復義務も賃貸借契約から生じる債務といえますので、賃貸人は、保証人に対しても、原状回復費用の請求ができることになります。

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