Archive for the ‘遺言の有効性に関する裁判例’ Category

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性18(東京地裁 令和2年1月14日)

2024-09-02

【事案の概要】

公証人作成に係る遺言公正証書によるAの遺言(以下「本件遺言」という)につき、遺言能力を欠いていた旨主張して、同遺言の無効確認を求めた事案。

本件遺言作成時,遺言者Aの年齢は90歳であり,約2年前にはアルツハイマー型認知症との確定診断を受けて投薬治療中であった。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年1月14日)。

【争点】

本件遺言は、Aが遺言能力を欠いていることにより無効か。

1 前提事実

平成25年4月24日,Aはアルツハイマー型認知症との診断を受けた。

平成26年12月3日から,Aは,肺結核により在宅療養をしていた。

平成27年1月27日,本件遺言書が作成された。

2 Aに投薬されていた薬剤

Aには,中等度及び高度アルツハイマー型認知症における症状の進行を抑制するメマリーという薬剤が投与されていた。

しかし,Aに投与されていたメマリーの用量は,通常の用法用量の2分の1以下という少量であり,本件遺言作成時にも同様であった。

通常,軽度のアルツハイマー型認知症の患者に投与される薬剤としてアリセプトがあるところ,Aの主治医作成のカルテには「高齢者で消化管出血も心配なので,アリセプトではなく,メマリーを処方する。」との記載がある。

かかるカルテの記載から,Aの主治医は,Aには本来アリセプトを選択するところ,副作用を心配してメマリーを選択したといえ,必ずしもAの認知症の進行状況だけを勘案して選択したわけではないことがうかがわれる。中程度及び平成24年12月18日、Aに係る保佐開始の審判の申立ての手続きを行った

ゆえに,平成25年2月15日のメマリーの投与開始をもって,Aのアルツハイマー型認知症が中程度及び高度であったとは認めがたい。

3 長谷川式スケール

平成27年4月27日のAの長谷川式スケール測定結果は,4点であった。

同年9月29日,Aの長谷川式スケールの結果は0点,測定結果記入欄には「コミュニケーション不可」との記載があった。

平成28年7月9日,Aは,救急搬送され死亡が確認された。

4 本件遺言書の作成状況

本件遺言書の作成は,証人2名を立ち会わせたうえで,公証人が本件遺言の内容を読み上げ,その内容を説明した後,Aの意思確認をし,Aが署名押印しており,その作成手続に違法はない。

また,本件遺言書作成当時のAの様子としては,証人2人と楽しそうに世間話ができる状態であり,公証人もAの意思疎通能力に問題はないと感じていた。

そして,本件遺言書にAは自筆で署名しているが,比較的難しい漢字について特に震え歪みもなく記載されている。

5 本件遺言書の内容

本件遺言書の内容は,分与する財産としては,本件土地と本件住戸であり,本件土地及び住戸について,遺産分割の対象としないことや持戻し免除とすることについても含めて,比較的単純といえる。

また,Aの遺産は,積極財産が4億6000万円余ある中で,本件土地及び住戸の価格は,合計1億2000万円余であり,係る財産を4名いる子どものうちの被告姉妹2名に与えるという内容も,特に不合理とまでは認められない。

6 結論

本件遺言書作成当時,Aには遺言能力がなかったとの原告の主張は認められない。

                                                                                                                                                                                                                                                                                             

【判決のポイント】

本件では,Aの長谷川式スケールの点数が0点であった事実の認定がされている点が注目されます。

しかし,点数が本件遺言書作成後であることや,本件遺言書が公正証書であること,本件遺言書の内容が単純であり不合理とはいえないこと,Aの筆跡がしっかりとしていること等を総合的に考慮して判断しており,従来通りの判断基準によるものと思われます。                     

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性17(東京地裁 令和2年1月30日)

2024-09-02

【事案の概要】

公証人作成に係る遺言公正証書によるAの遺言(以下「本件遺言」という)につき、遺言能力を欠き、または、口授を欠いていた旨主張して、同遺言の無効確認、被告に対し、不当利得返還請求として、各金員及び遅延損害金の支払いを求めた事案。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年1月30日)。

【争点】

本件遺言は、Aの遺言能力を欠いて無効か。

1 前提事実

⑴ 平成24年12月18日、Aに係る保佐開始の審判の申立ての手続きを行った。その申立てに当たり提出されたAの診断書には、Aの病名が統合失調症である旨の記載がなされていた。

⑵ 平成25年11月22日に実施された介護認定に関する概況調査において、活気はないが、コミュニケーションは取れ、時間の失見当や被害妄想はあるものの、定期的に通所することで、在宅生活が何とか維持できているなどとされた。

⑶ 平成26年11月10日に実施された介護認定に関する概況調査において、「認知機能」については、日課の理解ができず、実際とちがうことを話すことがあり、通帳、印鑑の管理ができていないこと等が指摘されたが、「毎日の日課」及び「短期記憶」のみが「できない」とされた。

⑷ 平成26年11月19日に実施されたHDS-R(長谷川式スケール)は15点であった。

⑸ 平成26年11月27日、青梅市立病院の医師は、Aにつき認知症及び器質性精神障害と診断した。

⑹ 平成27年9月14日に実施されたHDS-Rは7点とされた。

⑺ 同年11月5日、青梅三慶病院の医師は、Aに認知症・統合失調症と診断し、「短期記憶」は問題あり、日常の意思決定を行うための認知能力は「見守りが必要」とした。

⑻ 同年11月10日に実施された介護認定に関する概況調査において、調査時にいた場所等があいまいで答えられず、日頃も言ったことを忘れて何度も言ってくるとされるとともに、「ここ(本件施設)はどんなところかわからない。」と話していることが記載され、「認知機能」につき、短期記憶及び「今の季節を理解すること」のみできないとされた。

⑼ 平成28年4月28日に実施されたHDS-Rは7点とされた。

⑽ 平成28年6月28日、本件遺言公正証書が作成された。

2 遺言能力に関する判断基準

遺言者の判断能力になんらかの問題があったからといって遺言能力を欠くものとして直ちに遺言が無効になるものではなく、当該遺言の内容に即して、当該遺言の内容を理解して当該遺言をするとの判断をすることが出来る能力がなかったといえる場合には、当該遺言は遺言能力を欠くものとして無効となる。

3 本件に関する判断

本件遺言公正証書は,2条のみからなり,その内容は,要するに,Aが被告に対して一切の財産を包括遺贈し,その遺言執行者として,被告Gを選任して被告は遺言の執行に必要な一切の権限を行使することができるものとし,その報酬を100万円とするというものであり,比較的単純なものであって,その内容を理解することにつき高度な判断能力を要するとまでは考えがたい。

そうすると,本件遺言公正証書の作成の際のAの認知症の程度が高度であると認められるときに初めて本件遺言公正証書は,遺言能力を欠くものとして無効となる。

本件遺言公正証書の作成前である平成26年11月以降は認知症と診断されていたものの,本件遺言公正証書の作成の前後である平成27年11月及び平成28年7月に実施された介護認定に関する概況調査の際,「認知機能」につき,「意思の伝達」を含めて多くの項目について問題があると指摘されていたわけではなく,「精神・行動障害」についても,ほとんどの項目につき「ない」とされた。

なお,Aは,青梅三慶病院に入院していた当時,HDS―Rは7点とされている。

しかしながら,同病院はAにつき,ものごとに対する善悪の判断はつき,課題に対する集中力は比較的保たれているが持続性が乏しく意思にそぐわない場合には拒否する傾向が強いとの指摘をしていた等の事情に照らせば,青梅三慶病院におけるAのHDS―R の結果は,Aが検査に対する警戒心等から拒否的な態度を示したことなどが起因した可能性を否定できない。 

そのほか,Aの認知症の程度が重度であったとのことを認めるに足りる的確な証拠があったということはできない。

したがって,本件遺言公正証書の作成当時,Aが遺言能力を欠いていたということはできない。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                        

【判決のポイント】

遺言の有効性を争う裁判では、介護認定における主治医意見書とHDS-Rが証拠として提出されることが多く,本件のようにHDS―Rが7点の場合には遺言能力が無いとの判断に傾くことが多いと思われます。

本件は,HDS―Rの結果を遺言能力の判断に重要視できない事情を示している点が参考となる裁判例であると考えられます。

そして、上記裁判例の認定は、遺言の有効性を検討する際の目安になるものと考えます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性16(令和2年8月13日)

2024-09-02

【事案の概要】

亡Aの相続人である原告Ⅹらが、同じく亡Aの相続人である被告に対し、亡Aの5通の各自筆証書遺言(本件遺言1ないし5)は、いずれも作成時において亡Aに遺言能力が無かったとしてその無効確認を求めた事案である。

亡Aは、平成24年から27年にかけて5通の本件遺言書を作成したが、認知症の症状があらわれ、平成29年には補佐開始の審判を受けたものの、同年の鑑定書でも混合型認知症の程度は軽度であるとされ、5通の本件遺言書の内容もほぼ一貫していた。

本件遺言書は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は本件遺言書1ないし4が無効であることの確認を求める部分を却下し、本件遺言書5の遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年8月13日)。

【争点】

本件各遺言書作成時における亡Aの遺言能力の有無

1 前提事実

(1) 亡Aは、平成15年9月29日に本件公正証書遺言1を、平成20年1月21日に本件公正証書遺言2を作成した。

亡Aは、平成24年2月9日本件遺言書1を平成26年3月13日には本件遺言書2を、平成26年11月6日には本件遺言書3を、平成26年12月11日には本件遺言書4を平成27年7月12日には本件遺言書5を作成した。

なお、亡Aが本件各遺言書を作成したのは、被告が亡A方を訪問するたびに、遺言書は最新のものが有効であるために作成して欲しいと懇請したためである。

(2) 亡Aは、平成26年7月3日、MMSE検査を実施したところ、17点との結果となり、アルツハイマー型認知症との診断がされた。

その後、亡Aは、平成27年10月22日、再度MMSE検査を受けたところ、MMSEは、21点となった。

同年11月17日頃、東京医科大学病院の医師により、亡Aについて認知症の進行があったとして、高度のアルツハイマー型認知症との診断がなされた。

(3) 平成29年3月9日、亡Aにつき成年後見開始の申立てがなされ、亡Aについて精神上の障害の有無、内容及び障害の程度につき鑑定が行われた。

平成29年5月2日付の鑑定書(本件鑑定書)によれば、亡Aは、混合型認知症を有しているが、その程度は軽度とされ、自己の財産を管理処分するには常に援助が必要であり、今後認知症状進行する可能性はあるが、改善する可能性はないとされた。

同年7月18日付に東京家庭裁判所は亡Aにつき保佐開始の審判をした(本件鑑定書に基づき、後見相当とは認められなかった)。

2 裁判所の判断

「 亡Aについては、本件鑑定書において、混合型認知症を有しているがその程度は軽度とされており、亡Aの混合型認知症においても、症状は進行することはあっても改善する可能性はないことと併せて考慮すれば、本件鑑定書作成時より前の本件遺言書5作成時ないしはそれ以前の各遺言書作成時においても亡Aの遺言能力に問題は認められない。」

「 また、本件各遺言書は、その作成時期が異なるにもかかわらず、本件駐車場については本件各遺言書全てにおいて、Iビルについては、本件各遺言書2ないし5において、いずれも被告に相続させるとの内容で一貫しており、本件各遺言書作成時亡Aの意思であったことが認められる。」

【判決のポイント】

本件において亡Aについての認知能力を示す資料として、MMSE検査結果や医師の診断書、成年後見申立時に作成された鑑定書が存在します。

ただ、これらの客観的資料のほとんどが、亡Aの最後の遺言書である本件各遺言書5が作成された後に作成されたとの点が特徴的であると考えられます。

本件の裁判所は、亡Aの遺言能力の有無の判断について、客観的資料のなかでも、本件鑑定書や、作成時期が異なる複数の遺言書の記載内容の一貫性を重視したと考えられます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性15(東京地裁 令和2年10月8日)

2024-09-02

【事案の概要】

Aの死亡後、亡A名義の自筆証書遺言(本件遺言書)が存在し検認が行われた。検認時の本件遺言書は,封緘されていない封筒に3枚の便箋が入った状態のものであり,遺言書の1ページとして扱われた便箋は,その紙面の中央付近で何者かにより縦方向に切り取られて,便箋の半分のみが残存した状態になっており,その右半分には,後記本件不動産を被告に相続させる旨の記載がある。

Aの自筆証書遺言は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年10月8日)。

【争点】

本件遺言書は有効か。

1 複数枚で構成される遺言書の有効性

「全文の辞書のある自筆証書遺言が複数枚の紙面にわたる場合,全ての紙面に日付,氏名,押印がなくても,いずれかの紙面に日付や氏名の自書と押印が存在し,複数枚の全て一通の一体性のある遺言書を構成していると認定できるのであれば,自筆証書遺言の要件を充足する有効な遺言と認めて差し支えない。」

2 本件遺言書の切断と遺言書の有効性

「遺言書は,自身の死後に遺産を誰に取得させることを希望するのかなどの遺言者の最終意思を書き記したものであり,所定の遺言の方式を遵守していれば,死後に遺言の内容に従った遺産の帰属等を実現できるという法的効果が付与されるものであるから,事柄の性質上,高度に厳粛な性格を帯びる非常に重要な文書であるといえる。

このような遺言書の一般的な性格や作成過程に鑑みると,遺言者自身が複数枚にわたる遺言書の特定の頁の一部だけを物理的に切断したうえで,一部切断の物理的痕跡のある不揃いの紙面が混在する複数枚の紙面で構成された遺言書を遺言者の最終意思を反映した完成文書として残そうとすることは極めて不自然かつ奇抜な発想であって,遺言者の死期の切迫や筆記能力の欠如などの特段の事情がない限り,常識的な見地に照らして想定しがたいものというべきである。

本件遺言書は,封筒が封緘されておらず,本件遺言書の存在を知った第三者がその一部を切断することが物理的に可能であったことを考慮すると,亡A以外の第三者が本件遺言書の1枚目の便箋を左半分を切断した可能性が高いという点は,第三者が不当な意図のもとに亡Aの遺言書に自ら手を加えたことの不自然性を通じて本件遺言書の一体性に関する否定的な考慮要素の一つとして位置づけるべきことになる。」

3(1)本件遺言書の物理的一体性

本件遺言書の各便箋上に契印はなく,便箋同士がもともとステープラー等で編綴されていた痕跡がなく,物理的一体のものとして存在していたとはいえない。

(2)折り目の位置の相違

本件遺言書の2枚目と3枚目の折り目の位置はほとんど一致しており,この2枚の紙面の端を揃えて重ねたうえで三つ折りにしたこととよく整合する。

他方で,1枚目の便箋の折り目だけ下端が他の2枚より突出し不揃いである。

この折り目の相違は,一緒に三つ折りされた2・3枚目の便箋とは別に1枚目の便箋だけ独立して三つ折りにされた可能性を示すものであり,1枚目の便箋は,2・3枚目の便箋と別の機会に作成された可能性がある。

(3)本件遺言書の内容面

本件遺言書の1頁目の便箋の内容は,本件不動産を被告に相続させるというものであり,本件遺言書の作成日付として表示されている平成8年10月6日の時点では,亡Dが所有しており,亡Aの所有する不動産ではなかった。

4 結論

本件遺言書が有効となるのは,亡Aが3枚位の便箋を平成8年10月6日以前に全て書き終えており,かつ亡A自身が同日の時点で明らかに作成時期が異なり,形式面の不統一を残したこれら3枚の便箋を1通の遺言書として完成させる意思を有していたと積極的に認定できる場合に限られるが,その立証は尽くされていない。

以上によれば,本件遺言書は,自筆証書遺言の有効要件を具備しておらず,無効である。

【判決のポイント】

複数枚の便箋で構成される自筆証書遺言に対して,物理的損壊の一点のみを捉えてその有効性を判断するのではなく,他の形式面や内容面を慎重に検討したうえでの判断がされている点が参考となる裁判例であると考えられます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性14(東京地裁 令和2年6月23日)

2024-09-02

【事案の概要】

本件は、Aの死亡後「以前につくった公正証書は総て無効」と記載されている自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)につき、原告が亡Aによって作成されたものであることなどを争い、その無効を求める事案である。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年6月23日)。

【争点】

1 本件遺言がAによる自署、押印によって作成されたものであるか

「 原告は筆跡の相違点について種々主張して争うが、本件に実施された筆跡鑑定においては、本件遺言の氏名及び住所部分の筆跡とこれらについてAが自署した鑑定資料における筆跡とこれらにつきAが自署した鑑定資料における筆跡とを具に対照、検討したうえで、具体的な根拠に基づき上記各部分については同一筆者によって書かれたものと認められるとの結論を導いているところ、これらにつき特段その信用性に疑問を差し挟むべき点は見受けられないし、原告においても、当該鑑定結果自体の信用性については何ら争わない。

よって、上記各証拠により、Aが自署して本件遺言を作成した事実が十分に認められる。」

2 本件遺言がAの意思に基づいて作成されたものであるか

「 原告は、仮にAが本件遺言を作成したものだとしても、これを遺言書であると認識し、その内容・表現が自己の真意と一致するものであることを確かめることができずに作成されたと縷々主張する。

しかしながら、本件全証拠においても、本件遺言の作成当時のAにおいて、その全文を自署しているにもかかわらず、本件遺言が遺言書であることやその内容を全く理解、認識できないような状態にあったものとうかがわせるような事情の存在は認められない。

本件遺言はAの意思に基づいて作成されたものと認められるのが相当である。」

3 結論

本件遺言は、自筆証書遺言の成立要件を満たす有効なものである。

【判決のポイント】

1 原告は、争点1についての主張として、本件遺言書の筆跡が亡Aのものと異なることや、亡Aが本件遺言の存在を認識していないとの事実、本件遺言書の記載内容が不自然である等の事実を主張しました。

しかし、原告はその主張を裏付ける客観性が担保された証拠(例えばAの判断能力の衰え等を示す医師の診断書等)の提出がされていませんでした。

2 また、原告は争点2においても、同様に原告の主張を裏付ける客観的証拠の提出がされていませんでした。

このため、本件遺言書が無効との判断が示されなかったものと推測される事案です。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性13(東京地裁 令和2年9月15日)

2024-09-02

【事案の概要】

本件は,遺言書作成当時の亡Aが作成した自筆証書(本件遺言書)につき無効確認を求めた事案である。

亡Aは,本件遺言書作成当時認知症の程度は中程度であったと認められ,短期記憶に問題があり,日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られたが,誰かが注意していれば,自立できる状態が維持されており,一応目の前の状況を理解した上で合理的に判断し,意思疎通ができる状況にあった。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年9月15日)。

【争点】

本件各遺言書につき,遺言者の遺言能力が認められるか。

裁判所は,以下のように判示し,遺言者亡Aの遺言能力を認めました。

1 亡Aの心身の状況

「原告は,介護保険の利用を希望し,平成25年11月11日,亡Aについて介護保険の要介護・要支援認定を申請するため,亡Aを同行し主治医であるD医師の診察を受けさせた。長谷川式スケールを実施したところ,中程度の16点であり,アルツハイマー型認知症であるとの診断を受けた。D医師作成の同月12日付け介護保険主治医意見書では,短期記憶に問題があり,日常の意思決定を行うための認知能力及び自分の意思の伝達能力についてはいくらか困難とされており,認知症高齢者の日常の自立度は2〈b〉(家庭内外において,日常生活に支障を来すような症状・行動がみられても,誰かが注意していれば自立できる状態)とされている。

亡Aは,同月下旬に要介護1の認定を受けた。」

「原告は,平成26年4月5日、同伴して亡AにD意思の診察を受けさせた。長谷川式スケールを受けさせたところ14点であった。」

「原告は、平成26年4月9日、亡Aの要介護認定変更申請をした。Ⅾ医師作成の同月15日付主治医意見書では、短期記憶については「問題あり」、日常の意思決定を行うための認知能力については、「いくらか困難」とされており、認知症高齢者の日常生活自立度は〈2〉bとされている。

また、同月28日に実施された介護認定調査結果によれば、亡Aは、その場の簡単なことしか伝えられないこと短期記憶については、2,3分前に話したことはすぐに忘れてしまうこと、日常の意思決定については、声掛けしないと生活ができないなどが特機事項として記載されており、短期記憶は欠如している、意思伝達は時々できる、日常の意思決定は時々できる日常の意思伝達は日常的に困難とされ、認知症高齢者の日常生活の自立度は〈3〉⒜日中を中心として日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする状態)とされている。

亡Aは、同年5月16日に、要介護1から要介護3への区分変更を受けた。」

「 以上の認定事実によれば、亡Aは、平成26年3月22日の本件遺言書作成当時は、認知症であったと認められる。そして、本件遺言書作成前後の亡Aの認知症の具体的状態としては、中程度であったと認められる。

2 本件遺言書の内容について

「本件遺言書の文言、格別複雑とはいえず、分割の方法としても、現状財産の二分の一づつとするという単純かつ明確なものであるといえる。」

「財産管理能力と遺言能力とは一致するものではない。」

3 結論

「亡Aが、本件遺言書の内容を理解して本件遺言書を自書したものであれば、その効力を否定することはできない。」

  

【判決のポイント】

本判決においても,裁判所は,遺言能力の判断に際して,客観的資料の他,遺言書の内容,遺言者の心身の状況,健康状態,遺言についての意向等を総合考慮するという従来からの判断方法にしたがって結論を導いたものと考えられます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性12(東京地裁 令和2年1月8日)

2024-03-02

【事案の概要】

亡Aの長女である原告が、兄である被告Y1及びその妻である被告Y2に対し、亡A名義の平成26年4月22日付けの自筆証書遺言(本件遺言)が無効であることの確認を求めた事案。

本件遺言は亡Aが作成したものと認められる一方、本件遺言は、短いものであり、内容としても単純なものであるが、亡Aが平成21年にアルツハイマー型認知症と診断され、その後、徐々にアルツハイマー型認知症が進行して平成26年4月頃には見当識障害がみられ、本件遺言の内容が亡Aの従前の言動と大きく異なる理由を合理的に説明するに足りる事情が認められないとの認定がされた。

亡Aに遺言能力は認められるか。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年1月8日)。

【争点】

 亡Aに遺言能力が無く本件遺言が無効か。

裁判所は以下のように判示し、亡Aに遺言能力が認められないと判断しました。

1 Aのアルツハイマー型認知症について

「Aは、平成20年12月の時点での、記銘力障害があり、時間的見当識が障害され、簡単な計算はできるが、物盗られ妄想が発生していて、平成20年12月時点での長谷川式認知症スケールの点数は、21点であって、「平成20年12月の時点で、アルツハイマー型認知症に罹患し、その状態は初期であった。

  そして、平成26年11月には長谷川式スケールの点数が4点と重度の認知症を示唆する結果であるところ、Aのアルツハイマーが平成26年11月頃に急激に悪化したことをうかがわせる事情はないこと、平成26年4月頃のアリア碑文谷の記録には、夜10時頃に施設内を下はスカート、上はパジャマの恰好で歩いているなど見当識障が出現していることにてらすと、Aのアルツハイマー型認知症は徐々に進行していたと考えるのが相当である。」

2 本件遺言の内容について

 「本件遺言は、原告及び被告らに各3分の1ずつ財産を与える内容であるところ、同内容は先遺言及び先遺言をした頃に周囲に表明していたⅮの考えとは大きく異なるが、Ⅾが本件遺言の内容の遺言をする合理的な理由は見当たらない。」

3 結論

 「本件遺言は、短いものであり、内容としても単純なものであるが、Ⅾが平成21年にアルツハイマー型認知症と診断され、その後、徐々にアルツハイマー型認知症が進行し(平成26年11月には長谷川式認知症スケールの点数が4点となるほど進行し)、平成26年に4月頃には見当識障害がみられ、本件遺言の内容が従前と異なる理由を合理的に説明するに足りる事情は見当たらないことに照らすと、Ⅾは本件遺言をした際、本件遺言の内容を理解し遺言の結果を弁識し得るに足りる能力有していなかったと認めるのが相当である。」

【判決のポイント】

 本判決においても、裁判所は、遺言能力の判断に際して、客観的資料の他、遺言の内容、遺言についての遺言者の意向(本件では、本件遺言と先遺言の内容が異なる合理的理由が遺言者の行動にはないことを重視していると考えられます。)等を総合考慮するという従来からの判断方法に従って結論を導いたものと考えられます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性11(東京地裁 令和2年6月12日)

2024-03-02

【事案の概要】

亡Gの相続人である原告らが、同じく亡Gの相続人である被告らに対し、平成24年11月24日付けの公正証書遺言による亡Gの遺言について、その遺言当時、G遺言能力を有していなかったこと等を理由として,当該遺言が無効であることの確認を求めた事案です。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年6月12日)。

【争点】

1 Gが本件遺言時において,遺言能力を欠いており,本件遺言が無効か。

裁判所は以下のように判示し、Gが本件遺言時において,遺言能力を欠いていたものとは認められないとしました。

「前記認定事実(前記争いのない事実を含む。以下同じ。)によれば,Gは,平成24年5月8日の時点において,自らの身分及び財産に大きな影響を及ぼす養子縁組をするに十分な能力を有していたところ,本件公正証書遺言は,その約半年後に作成されたものであり,本件遺言当時以降も平成25年5月まで単身で自宅から離れた病院へ赴き新幹線で福島県を訪れて各種会合に参加し,弁護士事務所を訪れて弁護士と訴訟の対応の打ち合わせをするなどものである。」

「…また,3月7日に実施された介護認定に係る調査員による面接調査においても,Gについて,短期記憶に問題がある旨の指摘がされていたものの,意思を他者に伝達することについては可能であり,日常の意思決定も特別な場合を除いて可能であるとの評価がされていたものである。」

「また,同年2月22日に作成された主治医の意見書においては,Gが認知症に罹患しており,短期記憶に問題があり,日常の意思決定を行うための認知能力には見守りが必要であり,「認知症が今後の生活機能低下の原因と思われる。」旨の記載がされているものの,心身の状態としては,意思疎通の困難さが多少見られても,誰かが注意していれば自立できるとのという評価がされ,認知症の周辺症状においても特にないと評価されており,この主治医の意見をもって直ちにGが意思能力を欠く常況であったものと認めることはできない。」

「これらの事情に本件遺言時以降Gが死亡するまでの間,Gと日常生活上関わっている者において,Gの意思能力に問題を感じたとのという事実が特にうかがわれないことなどを併せみれば,Gが,本件遺言時において遺言をする意思を有していない常況であったものとは認めることはできない。」

【判決のポイント】

本判決においても,裁判所は遺言能力の判断に際して,客観的資料の他,遺言書の内容,遺言者の心身の状況,健康状態,遺言についての意向等を総合考慮するという従来からの判断方法に従って結論を導いたものと考えられます。

本件では,客観的資料として主治医の診断書等が用いられています。

また,Gが遺言をする前の行動及び遺言後の行動等を総合考慮し,遺言能力を判断したものと思われます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性⑩

2023-12-04

【事案の概要】

 亡A名義の「ゆいごんしょ 私のざいさん(夫Bのそうぞくしたざいさんもふくむ)すべてをYにそうぞくさせる。 平成22年11月8日 大田区(以下省略)A」という自筆証書遺言が発見された。当時Aは、主治医から典型的なアルツハイマー病であると診断されていた。また,介護保険における要介護4に認定されていた。Aの自筆証書遺言は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年3月23日)。

【争点】

1 亡Aの遺言能力の有無

 裁判所は以下のように判示し、本件遺言作成時における亡Aの遺言能力を認めませんでした。

「亡きAは,平成21年2月に脳梗塞で入院し,退院後は車いす生活であった。

亡Aは,平成21年2月25日頃,糖尿病,高脂血症の治療のため入院していた京浜病院で長谷川式簡易知能評価スケールは0点であった。そのMMSEにおいて亡Aは,検査当時の日付も回答することができなかった。

京浜病院のAの主治医は,平成21年2月26日,診療及びMMSEの結果を受け,亡Aは典型的なアルツハイマー病であると診断した。り,MMSEにおいて,総得点は30点中13点見識職障害と短期記憶想起障害,構成失行も認められるとして,主治医司より典型的アルツハイマー病であると診断した。」

「亡Aは,平成21年8月に,大田区の調査を受け,介護保険における要介護4に認定された。」

「アイメディカルクリニックのE医師は,平成25年1月9日,亡Aについて,脳梗塞後遺症及び脳血管性認知症と診断し,加齢に伴って徐々に体力が減少し,認知能力の低下をきし現在に至るとしたうえで,日々の意思疎通ができず,物の名前がわからない短期記憶・長期記憶もできない見当識の障害が高度である,他人との意思疎通ができない,社会的手続きや公共施設の利用ができない,脳の萎縮又は損傷が著しいとして,亡きAの判断能力判定において,自己の財産を管理処分することができず,後見相当であるとの診断をした。」

「本件遺言書は,被告が亡Aに対し,被告に財産を残して欲しいとして遺言書の作成を持ち掛け,連日にわたり合計10時間もの練習をさせて完成させたものであり,Aが自主的に作成をこころみたものではない。」

「以上を総合的に考慮すると,平成22年11月に本件遺言書が作成された時点で,亡Aにおいて,遺言する能力を欠いていたものと認められる。」

【判決のポイント】

 本件では,遺言の有効性判断につき,従来通りの判断基準を用いていると考えられます。

 また,遺言者の認知症の程度が重篤であると考えられる場合においても遺言書作為の経緯等が遺言能力の判断において考慮されているものと考えられます。

自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性⑨(東京地裁 令和2年11月9日)

2023-12-04

【事案の概要】

A(以下「亡A」という。)の死亡後、A作成の遺言書(以下「本件遺言書」という。)につき、Aに遺言能力が無かったとして,相続人の一人が本件遺言の無効確認を求めた事案です。

本件遺言作成時の亡Aは、94歳と高齢であり、アルツハイマー型認知症に罹患していました。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容しました。(東京地裁 令和2年11月9日)。

【争点】

遺言者亡Aの遺言能力の欠如により本件遺言が無効か。

裁判所は以下のように判示し、本件遺言作成時(平成27年11月11日)のAの遺言能力は欠如していると判断をしました。

1 Aのアルツハイマー型認知症の症状の症状について

「Aは,平成27年9月1日時点において,アルツハイマー型認知症に罹患しており,平成29年3月まで継続して同症状に応じた薬の処方が継続してされていた。

そして,新宿区作成のAの介護認定情報によれば,Aは,平成27年8月22日ないし同年9月1日時点において,記憶があるのは前日のことだけであり,短期記憶ができず,物盗まれ妄想があり,当時実際には夏であるのに,秋と答え,施設ではなくホテルに入居していると思っており,その当時の季節や所在場所が理解できていなかった。

行動面では,毎日,施設の廊下を徘徊し,鍵をかけている他人の部屋に入ろうとし,週に2,3回,本件施設の他人の部屋に入って物を盗ってきて自分の部屋にしまっていた。

さらにAには,平成27年9月以降も,物盗られ妄想,徘徊,尿失禁,状況に合わない不適切な着衣等,アルツハイマー型認知症の症状が継続して見られた。

以上のAの症状からすると,本件遺言作成当時,Aの判断能力は相当低下していたものと認められる。」

2 本件遺言内容の複雑性について

「本件遺言の内容は,相続人によって取得することになる遺産の種類が異なっている上,相続人が取得することになる本件共有マンションの共有持分割合が3名とも異なっており,全部の遺産を一人の相続人に相続させる等の遺言と比較して,より複雑な面を有する。」

3 判断

「以上のとおり,本件遺言作成時のAの94才と高齢で,アルツハイマー型認知症であり,本件遺言作成の前後には短期記憶に欠けるところがあり,徘徊,物盗られ妄想,尿失禁,不適切な着衣等の症状が見られ,本件遺言の内容が複雑な面を有すること等の事情を総合すれば,Aに遺言能力はなかったものと認められ,本件遺言は無効である。」

【判決のポイント】

本判決においても,裁判所は遺言能力の判断に際して,客観的資料の他,遺言書の内容,遺言者の心身の状況,健康状態,遺言についての意向等を総合考慮するという従来からの判断方法に従って結論を導いたものと考えられます。

本件で,裁判所は,客観的資料として,Aがアルツハイマー型認知症であるとの医師の診断書・新宿区作成のAの介護認定情報を用いました。

そして,本件遺言内容は複雑であること,心身の状況等を総合考慮し,遺言能力を判断したものと思われます。

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