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1.遺産分割協議とは
相続が開始すると、相続財産は、相続人の共有状態(いわゆる遺産共有)になります(民法898条)。
この共有状態を解消するため、財産の内容や各相続人のおかれた状況などの諸事情を考慮して、相続財産の分け方を具体的に決めることを遺産分割といいます(民法第906条)。
共同相続人は、被相続人が遺産分割を遺言で禁止した場合を除いて、いつでも協議により遺産分割をすることができます(民法第907条1項)。
そして、協議によって遺産分割が成立した場合には、共同相続人全員により遺産分割協議書が作成されることになります。
なお、遺産分割協議が成立した後に遺産である不動産の相続登記や預貯金の解約等の手続をすることになります。
これらの手続に当たっては、共同相続人の署名・押印(実印)がなされた遺産分割協議書原本と共同相続人の印鑑登録証明書原本の提出を求められることになりますので、遺産分割協議書を作成する際に注意する必要があります。
2.遺産分割調停とは
遺産分割協議がまとまらない場合、家庭裁判所における遺産分割調停という手続を利用することができます。
この遺産分割調停を利用するためには、相続人の1人または数人が申立人となり、その他の相続人全員を相手方として、家庭裁判所に対して遺産分割調停の申立てを行うことになります。
調停期日では、家庭裁判所において、調停委員が各相続人から事情を聴取し、資料の提出を受けたりするなどした上で、遺産分割の方法についての希望を確認します。
その上で、調停委員や裁判官から助言を受けたり、解決案の提示を受けたりしながら、遺産分割の成立に向けた話し合いを進めていきます。
3.遺産分割調停の管轄
遺産分割調停を申し立てることができる家庭裁判所は以下の通りです。
- 相手方となる相続人の1人の住所地を管轄する家庭裁判所
- 調停当事者全員が合意した家庭裁判所
4.遺産分割調停申立ての手続
(1)申立てに必要な費用
- 被相続人1名につき収入印紙1200円
- 郵便切手(具体的な内訳は、裁判所にお問い合わせください)
(2)申立てに必要な書類
- 申立書
※正本(裁判所用1通)、副本(相手方の人数分)が必要になります。 - 被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時までの全ての戸籍謄本)
- 相続人全員の戸籍謄本
※本来の相続人である配偶者、子、直系尊属、兄弟姉妹が死亡している場合には、その死亡した相続人の戸籍謄本等が必要になります。 - 相続人全員の住民票または戸籍附票
- 遺産に関する証明書
※不動産登記事項証明書・固定資産評価証明書、預貯金の残高証明書、有価証券写しなど
(3)申立て方法
上記申立て費用と申立てに必要な書類の全てを家庭裁判所に提出します。
※上記書類等を提出する場合には、事前に写しを取り、お手元の控えを用意するとよいと思います。
5.遺産分割審判とは
遺産分割について、共同相続人間の協議がととのわないとき、または協議をすることができないときは、各相続人は家庭裁判所に対して、遺産分割審判を求めることができます(民法第907条2項)。
なお、遺産分割調停を申し立てたものの話合いがまとまらずに調停不成立になった場合には、自動的に審判手続が開始され、裁判官が遺産に属する物または権利の種類及び生活状況その他一切の事情を考慮して、遺産分割の方法を決定する審判をすることになります。
6.遺産分割審判の管轄
遺産分割審判を申し立てることができる家庭裁判所は、「相続が開始した地を管轄する家庭裁判所」、すなわち被相続人の最後の住所地になります(家事事件手続法第19条1項)。
ただし、相手方となる相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てたものの話合いがまとまらずに調停不成立となり自動的に審判手続に移行した場合には、実務上調停事件を扱った家庭裁判所がそのまま自庁処理をする扱いになっています。
7.遺産分割審判の種類
遺産分割審判の内容として、以下の3つの分割方法があります。
- 現物分轄
- 換価分割
- 代償分轄
8.現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま性質や形状を変えることなく分割する方法です。
例えば相続人が2人のケースで、相続人の1人が預金を単独で取得し、もう1人の相続人が不動産を単独で取得するというような分割方法です。
また、例えば一筆の土地について、複数の相続人が相続分の割合に応じて共有持分を取得するというような分割方法もあり得ます。
9.換価分割
換価分割とは、家庭裁判所が遺産の全部または一部を競売や任意売却により換価することを命ずる遺産分割方法になります(家事事件手続法第194条)。
例えば、相続人の1人が遺産である不動産の競売を申し立て、その換価代金を遺産分割の対象とする分割方法です。
10.代償分割
代償分割とは、共同相続人の一人または数人に他の共同相続人に対する債務を負担させる分割方法です(家事事件手続法第195条)。
この代償分轄は「特別の事情」(家事事件手続法195条)がある場合にのみ認められるものとされています。
そして代償分轄が認められる「特別な事情」としては、①現物分割が遺産分割方法として相当でなく、②遺産の現物を取得する代わりに債務を負担することになる相続人に代償金支払能力があることをいうものとされています(最高裁判所平成12年9月7日決定)。
例えば、相続人の1人が遺産の土地・建物に長年居住しており他に現物分割できる遺産がない場合に、その相続人が当該土地・建物を取得した上で他の相続人に対して代償金を支払うケース等があります。