自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性15(東京地裁 令和2年10月8日)

【事案の概要】

Aの死亡後、亡A名義の自筆証書遺言(本件遺言書)が存在し検認が行われた。検認時の本件遺言書は,封緘されていない封筒に3枚の便箋が入った状態のものであり,遺言書の1ページとして扱われた便箋は,その紙面の中央付近で何者かにより縦方向に切り取られて,便箋の半分のみが残存した状態になっており,その右半分には,後記本件不動産を被告に相続させる旨の記載がある。

Aの自筆証書遺言は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を認容した(東京地裁 令和2年10月8日)。

【争点】

本件遺言書は有効か。

1 複数枚で構成される遺言書の有効性

「全文の辞書のある自筆証書遺言が複数枚の紙面にわたる場合,全ての紙面に日付,氏名,押印がなくても,いずれかの紙面に日付や氏名の自書と押印が存在し,複数枚の全て一通の一体性のある遺言書を構成していると認定できるのであれば,自筆証書遺言の要件を充足する有効な遺言と認めて差し支えない。」

2 本件遺言書の切断と遺言書の有効性

「遺言書は,自身の死後に遺産を誰に取得させることを希望するのかなどの遺言者の最終意思を書き記したものであり,所定の遺言の方式を遵守していれば,死後に遺言の内容に従った遺産の帰属等を実現できるという法的効果が付与されるものであるから,事柄の性質上,高度に厳粛な性格を帯びる非常に重要な文書であるといえる。

このような遺言書の一般的な性格や作成過程に鑑みると,遺言者自身が複数枚にわたる遺言書の特定の頁の一部だけを物理的に切断したうえで,一部切断の物理的痕跡のある不揃いの紙面が混在する複数枚の紙面で構成された遺言書を遺言者の最終意思を反映した完成文書として残そうとすることは極めて不自然かつ奇抜な発想であって,遺言者の死期の切迫や筆記能力の欠如などの特段の事情がない限り,常識的な見地に照らして想定しがたいものというべきである。

本件遺言書は,封筒が封緘されておらず,本件遺言書の存在を知った第三者がその一部を切断することが物理的に可能であったことを考慮すると,亡A以外の第三者が本件遺言書の1枚目の便箋を左半分を切断した可能性が高いという点は,第三者が不当な意図のもとに亡Aの遺言書に自ら手を加えたことの不自然性を通じて本件遺言書の一体性に関する否定的な考慮要素の一つとして位置づけるべきことになる。」

3(1)本件遺言書の物理的一体性

本件遺言書の各便箋上に契印はなく,便箋同士がもともとステープラー等で編綴されていた痕跡がなく,物理的一体のものとして存在していたとはいえない。

(2)折り目の位置の相違

本件遺言書の2枚目と3枚目の折り目の位置はほとんど一致しており,この2枚の紙面の端を揃えて重ねたうえで三つ折りにしたこととよく整合する。

他方で,1枚目の便箋の折り目だけ下端が他の2枚より突出し不揃いである。

この折り目の相違は,一緒に三つ折りされた2・3枚目の便箋とは別に1枚目の便箋だけ独立して三つ折りにされた可能性を示すものであり,1枚目の便箋は,2・3枚目の便箋と別の機会に作成された可能性がある。

(3)本件遺言書の内容面

本件遺言書の1頁目の便箋の内容は,本件不動産を被告に相続させるというものであり,本件遺言書の作成日付として表示されている平成8年10月6日の時点では,亡Dが所有しており,亡Aの所有する不動産ではなかった。

4 結論

本件遺言書が有効となるのは,亡Aが3枚位の便箋を平成8年10月6日以前に全て書き終えており,かつ亡A自身が同日の時点で明らかに作成時期が異なり,形式面の不統一を残したこれら3枚の便箋を1通の遺言書として完成させる意思を有していたと積極的に認定できる場合に限られるが,その立証は尽くされていない。

以上によれば,本件遺言書は,自筆証書遺言の有効要件を具備しておらず,無効である。

【判決のポイント】

複数枚の便箋で構成される自筆証書遺言に対して,物理的損壊の一点のみを捉えてその有効性を判断するのではなく,他の形式面や内容面を慎重に検討したうえでの判断がされている点が参考となる裁判例であると考えられます。

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