【事案の概要】
本件は、Aの死亡後「以前につくった公正証書は総て無効」と記載されている自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)につき、原告が亡Aによって作成されたものであることなどを争い、その無効を求める事案である。
【裁判所の判断】
裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年6月23日)。
【争点】
1 本件遺言がAによる自署、押印によって作成されたものであるか
「 原告は筆跡の相違点について種々主張して争うが、本件に実施された筆跡鑑定においては、本件遺言の氏名及び住所部分の筆跡とこれらについてAが自署した鑑定資料における筆跡とこれらにつきAが自署した鑑定資料における筆跡とを具に対照、検討したうえで、具体的な根拠に基づき上記各部分については同一筆者によって書かれたものと認められるとの結論を導いているところ、これらにつき特段その信用性に疑問を差し挟むべき点は見受けられないし、原告においても、当該鑑定結果自体の信用性については何ら争わない。
よって、上記各証拠により、Aが自署して本件遺言を作成した事実が十分に認められる。」
2 本件遺言がAの意思に基づいて作成されたものであるか
「 原告は、仮にAが本件遺言を作成したものだとしても、これを遺言書であると認識し、その内容・表現が自己の真意と一致するものであることを確かめることができずに作成されたと縷々主張する。
しかしながら、本件全証拠においても、本件遺言の作成当時のAにおいて、その全文を自署しているにもかかわらず、本件遺言が遺言書であることやその内容を全く理解、認識できないような状態にあったものとうかがわせるような事情の存在は認められない。
本件遺言はAの意思に基づいて作成されたものと認められるのが相当である。」
3 結論
本件遺言は、自筆証書遺言の成立要件を満たす有効なものである。
【判決のポイント】
1 原告は、争点1についての主張として、本件遺言書の筆跡が亡Aのものと異なることや、亡Aが本件遺言の存在を認識していないとの事実、本件遺言書の記載内容が不自然である等の事実を主張しました。
しかし、原告はその主張を裏付ける客観性が担保された証拠(例えばAの判断能力の衰え等を示す医師の診断書等)の提出がされていませんでした。
2 また、原告は争点2においても、同様に原告の主張を裏付ける客観的証拠の提出がされていませんでした。
このため、本件遺言書が無効との判断が示されなかったものと推測される事案です。