自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性13(東京地裁 令和2年9月15日)

【事案の概要】

本件は,遺言書作成当時の亡Aが作成した自筆証書(本件遺言書)につき無効確認を求めた事案である。

亡Aは,本件遺言書作成当時認知症の程度は中程度であったと認められ,短期記憶に問題があり,日常生活に支障を来すような症状・行動や意思疎通の困難さが多少見られたが,誰かが注意していれば,自立できる状態が維持されており,一応目の前の状況を理解した上で合理的に判断し,意思疎通ができる状況にあった。

【裁判所の判断】

裁判所は遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年9月15日)。

【争点】

本件各遺言書につき,遺言者の遺言能力が認められるか。

裁判所は,以下のように判示し,遺言者亡Aの遺言能力を認めました。

1 亡Aの心身の状況

「原告は,介護保険の利用を希望し,平成25年11月11日,亡Aについて介護保険の要介護・要支援認定を申請するため,亡Aを同行し主治医であるD医師の診察を受けさせた。長谷川式スケールを実施したところ,中程度の16点であり,アルツハイマー型認知症であるとの診断を受けた。D医師作成の同月12日付け介護保険主治医意見書では,短期記憶に問題があり,日常の意思決定を行うための認知能力及び自分の意思の伝達能力についてはいくらか困難とされており,認知症高齢者の日常の自立度は2〈b〉(家庭内外において,日常生活に支障を来すような症状・行動がみられても,誰かが注意していれば自立できる状態)とされている。

亡Aは,同月下旬に要介護1の認定を受けた。」

「原告は,平成26年4月5日、同伴して亡AにD意思の診察を受けさせた。長谷川式スケールを受けさせたところ14点であった。」

「原告は、平成26年4月9日、亡Aの要介護認定変更申請をした。Ⅾ医師作成の同月15日付主治医意見書では、短期記憶については「問題あり」、日常の意思決定を行うための認知能力については、「いくらか困難」とされており、認知症高齢者の日常生活自立度は〈2〉bとされている。

また、同月28日に実施された介護認定調査結果によれば、亡Aは、その場の簡単なことしか伝えられないこと短期記憶については、2,3分前に話したことはすぐに忘れてしまうこと、日常の意思決定については、声掛けしないと生活ができないなどが特機事項として記載されており、短期記憶は欠如している、意思伝達は時々できる、日常の意思決定は時々できる日常の意思伝達は日常的に困難とされ、認知症高齢者の日常生活の自立度は〈3〉⒜日中を中心として日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが見られ、介護を必要とする状態)とされている。

亡Aは、同年5月16日に、要介護1から要介護3への区分変更を受けた。」

「 以上の認定事実によれば、亡Aは、平成26年3月22日の本件遺言書作成当時は、認知症であったと認められる。そして、本件遺言書作成前後の亡Aの認知症の具体的状態としては、中程度であったと認められる。

2 本件遺言書の内容について

「本件遺言書の文言、格別複雑とはいえず、分割の方法としても、現状財産の二分の一づつとするという単純かつ明確なものであるといえる。」

「財産管理能力と遺言能力とは一致するものではない。」

3 結論

「亡Aが、本件遺言書の内容を理解して本件遺言書を自書したものであれば、その効力を否定することはできない。」

  

【判決のポイント】

本判決においても,裁判所は,遺言能力の判断に際して,客観的資料の他,遺言書の内容,遺言者の心身の状況,健康状態,遺言についての意向等を総合考慮するという従来からの判断方法にしたがって結論を導いたものと考えられます。

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