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1.被相続人の財産の使い込み
相続やこれに関連する相談を受ける中でとても多い相談ごととして、親族等による被相続人の財産の使い込みが挙げられます。
その対応方法については、大きく分けて、以下の4つのケースに分類できると思います。
- 生前に発覚するケース(判断能力を欠いている)
- 生前に発覚するケース(判断能力が不十分)
- 死亡後に発覚するケース(判断能力を欠いている)
- 死亡後に発覚するケース(判断能力が不十分)
2.生前に発覚するケース(判断能力を欠いている)
(1)対応方法
同居の親族等による被相続人の財産の使い込みが、生前に発覚するケースは多いといえます。
例えば、被相続人の預貯金が無断で出金されたことで、本人の入居する施設の利用料すら支払えない等の深刻な状況に陥っているケースも実際に発生しています。
死亡後に発覚するケースとの大きな違いとしては、たとえ相続人の地位にある親族がこれを追求しようとしても、被相続人の財産を管理する法的権限がないという点が挙げられます。
そこで、判断能力が十分ではない被相続人の財産の使い込みが生前に発覚するケースでは、本人を法的に援助すする人を裁判所に選任してもらうことが必要です。
特に、被相続人に判断能力が欠けているのが通常の状態の場合には、援助者として、日常生活に関する行為を除く全ての法律行為を本人に代わってしたり、取り消したりすることができる「成年後見人」を裁判所に選任してもらうことになります。
(2)成年後見人を選任してもらう方法
家庭裁判所に対して、後見開始審判の申立てを行います。
申立方法等は、以下の通りです。
- 管轄
援助を受ける本人(被相続人)の住所地(住民登録している場所)を管轄する家庭裁判所になります。 - 申立人
本人、配偶者、四親等内の親族、市町村長などに限られています。 - 申立てに必要な費用
・申立手数料(収入印紙800円)
・登記手数料(収入印紙2600円)
・郵便切手(具体的な内訳は、裁判所にお問い合わせください) - 申立てに必要な書類
成年後見開始審判を申立てるには様々な書類を用意する必要がありますが、主に以下のような書類が挙げられます。
・後見開始申立書
・申立関係書類(具体的な書式は申し立てる家庭裁判所にお問い合わせください。)
・本人の戸籍謄本
・本人の住民票又は戸籍の附票
・本人の成年被後見人等の登記がされていないことの証明書
・本人の診断書(成年後見制度用)
・本人の健康状態、収入・支出、財産、負債に関する資料
・(成年後見人候補者がいる場合)候補者に関する説明書、候補者の住民票又は戸籍の附票 - 申立て方法
上記申立て費用と申立てに必要な書類の全てを家庭裁判所に提出します。
※上記書類等を提出する場合には、事前に写しを取り、お手元の控えを用意するとよいと思います。
3.生前に発覚するケース(判断能力が不十分)
(1)対応方法
被相続人本人から聞き取りを行った上で、預貯金が出金されている等、財産が使い込まれていることの認識がない場合には、本人から使い込みを行った親族等に対して、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をします。
また、発覚後も財産の管理等に不安がある場合には、重要な財産行為等の特定の事項についてのみ、本人に代わってしたり、取り消したりすることができる「保佐人」や「補助人」を裁判所に選任してもらうことも検討する必要があります。
(2)保佐人とは
保佐人とは、本人の判断能力が著しく不十分な場合に、本人の援助者として家庭裁判所から選任される者をいいます。
保佐人は特定の事項(金銭の貸借、不動産及び自動車の売買、自宅の増改築等)について同意権を有しています。もし、保佐人の同意なく本人がこれらの事項を行ったとしても、保佐人がそれらを取り消すことができます。
また、本人の同意に基づき、保佐人に特定の事項についての代理権を付与することもできます。
保佐人を裁判所に選任してもらい、その保佐人に権限を付与するためには、家庭裁判所に対する保佐開始審判等申立てをする必要があります。
その申立方法については後見開始審判の申立てに準じるものになります。
(3)補助人とは
補助人とは、本人の判断能力が不十分な場合に、本人の援助者として家庭裁判所から選任される者をいいます。
補助人は本人の望む特定の事項について同意権を有しています。もし、補助人の同意なく本人がこれらの事項を行ったとしても、補助人がそれらを取り消すことができます。
また、本人の同意に基づき、補助人に特定の事項についての代理権を付与することもできます。
補助人を裁判所に選任してもらい、その補助人に権限を付与するためには、家庭裁判所に対する補助開始審判等申立てをする必要があります。
その申立方法については後見開始審判の申立てに準じるものになります。
4.死亡後に発覚するケース(判断能力を欠いている)
親族等による預貯金の出金等が行われた時点で被相続人が判断能力を欠いていた場合、被相続人はその親族等に対して不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をすることができます。
そして、被相続人が死亡した後、この不法行為に基づく損害賠償請求権又は不当利得返還請求権という債権を相続人が相続することになります。
したがって、財産の使い込みが死亡後に発覚するケースでは、相続人自身が、使い込みをした親族に対して、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をすることになります。
5.死亡後に発覚するケース(判断能力が不十分)
親族等による預貯金の出金等が行われた時点で被相続人の判断能力が不十分だった場合、その財産の移転が被相続人に無断でなされたものなのか、それとも被相続人の意思に基づくものなのかという点が問題になります。
死亡後に発覚するケースでは被相続人本人に確認をすることができませんので、生前の被相続人の判断能力の程度、本人の生活状況、動機等からその財産の移転が本人の意思に基づくものなのかを調査します。
その上で、財産の移転が被相続人に無断でなされたものといえる場合には、判断能力を欠くケースと同様に、相続人自身が、使い込みをした親族に対して、不法行為に基づく損害賠償請求又は不当利得返還請求をすることになります。
他方、財産の移転が本人の意思に基づくものといえる場合には遺産分割における生前贈与(特別受益)の問題となり得ます。