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1.行方不明の相続人や連絡の取れない相続人がいる
行方不明の相続人がいる場合、その相続人の代わりに遺産分割協議に参加する「不在者財産管理人」の選任を家庭裁判所に申し立てる必要があります。
他方、行方不明ではないけれども、全く連絡の取れない相続人がいる場合もあります。
この場合には不在者財産管理人を選任することができません。
そこで、その相続人と連絡を取る方法を調査し尽くした上で、どうしてもその相続人の協力を得ることが難しい場合には、家庭裁判所に対する遺産分割審判の申立てをすることになります。
これらの相続人がいる場合の対応については、どのような対応をするべきかの判断が難しいところもありますので、弁護士に依頼するメリットは大きいものといえます。
2.多数の相続人がいる
被相続人が死亡して長期間経過してしまっている場合など、相続人が数十人単位で存在する場合があります。
この場合、まずは相続人の確定のために被相続人の出生から死亡するまでの全ての戸籍を市町村役場から取り寄せるなどして被相続人が死亡した時点における相続人を確定させる必要があります。
その上で、その相続人が死亡している場合には、さらに当該相続人の出生から死亡までの戸籍を取り寄せるなどして、同人の相続人も確定させていきます。
被相続人が死亡して長期間経過してしまっている場合、何世代にも渡り相続が発生していることも多く、相続人を確定するだけで相当の時間と労力を費やすことも多いです。
また、相続人が多数人存在する場合、その相続人全員との間で遺産分割協議を成立させることも大変な作業になってきます。
多数の相続人がいる相続事件も弁護士に依頼するメリットの大きいケースの一つといえます。
3.相続人の脱漏
相続人の確定には、被相続人の出生から死亡までの戸籍を調査する必要があります。
もっとも戸籍の記載内容を読み違えたことにより、相続人を脱漏してしまう危険もあります。
実際にあった事案として、被相続人が離婚した後に婚姻前の戸籍に復帰したケースがありました。
この場合、一度婚姻により新しい戸籍に移動しておりますので、本来であればその戸籍も取得しなければなりません。
しかし、婚姻前後の戸籍が同一であることから婚姻当時の戸籍を取得しておらず、その戸籍に記載されている相続人を脱漏したまま遺産分割協議書を作成してしまったというものでした。
相続人の脱漏により遺産分割協議がまとまらなくなってしまうおそれもありますので、相続人の脱漏等のご不安がある場合には弁護士に依頼することをおすすめします。
4.法定相続分の誤り
被相続人の死亡から長期間経過しているような場合には、現行法における法定相続分の規定が適用されないケースもあります。
実際にあった事案として、昭和55年の民法改正以前に被相続人が死亡しているケースがありました(被相続人名義のままになっている不動産の名義変更を目的として遺産分割協議をするケースでした。)。
この場合、改正前の旧民法が適用されるため配偶者の相続分が3分の1になりますが、当事者の方々はそのことを認識しておりませんでした。
遺産分割協議後に上記のような誤解が判明した場合には事後的なトラブルに発展する可能性もありますので、遺産分割を適切にすすめたい場合には、弁護士にご相談されることをおすすめします。
5.不動産の評価
遺産分割協議において、遺産である不動産の評価額が争いになることがあります。
この点、遺産を各相続人に公平・平等に分配するという観点からすれば不動産の評価額についても時価(実際の取引価格)とすべきといえます。
もっとも、時価というのもあいまいなものになりますので、実際には固定資産税評価額や路線価を目安として、相続人間で妥当な評価額を確定させていくことになります。
相続人当事者間の協議だけではなかなか不動産の評価額が折り合わないこともございますので、弁護士が当事者のご意向を踏まえて適切な評価額の算定・提案をすることで解決につながるケースもあると思います。
6.相続人による使い込み
遺産分割協議において、被相続人の生前の預貯金を一部の相続人が無断で出金していた等の使い込みが判明するケースがあります。
この場合には出金された現金自体は遺産分割協議の対象にはならず、出金された金額に相当する損害賠償請求権(または不当利得返還請求権)という債権を各相続人が法定相続分に応じて取得することになります。
つまり、相続人による使い込みは家庭裁判所の遺産分割調停で解決できる範囲外の争点であり、話し合いがまとまらなければ民事訴訟を提起しなければなりません。
相続人による使い込みに関する民事訴訟では、当該相続人による出金の有無や被相続人の承諾の有無について立証できるかどうかが重要なポイントになりますので、事前に弁護士にご相談される必要があるかと思います。
7.第三者名義の財産
被相続人の遺産に第三者名義となっている財産が含まれる場合があります。
実際にあった事案として、生前被相続人が居住していた不動産が不動産業者名義だったというケースがありました。
被相続人はその不動産業者からその土地と建物を購入したらしいのですが、何らかのトラブルにより移転登記がなされていなかったということでした。
そのため、このケースでは、遺産分割協議の前提として相続人の1人から依頼を受けて、不動産業者との間で当該不動産の所有権移転登記手続請求訴訟を提起し、最終的に同不動産を被相続人名義に移すことができました。
このように遺産分割協議の前提として対応すべき問題があるケースもあります。このようなケースについても弁護士にご相談いただく事案かと思います。
8.農地の共有
農地も遺産に含まれますので、遺産分割協議によって相続人のいずれかがこれを単独で取得することは問題がありません。
しかし、実際にあった事案として遺産分割審判により相続人全員が相続分に応じて遺産である農地の持分を相続することになってしまったケースがあります。
その結果として、農地が相続人全員の共有となりましたが、農地法上の制約により、相続人らが共有持分の譲渡ができず、事実上共有関係の解消が困難な状況になってしまいました。
上記遺産分割審判(及び遺産分割調停)は申立人も相手方も相続人本人が対応したものでしたが、弁護士が対応していれば遺産分割審判の時点で、当事者の意向に沿った解決を図ることができたのではないかと感じました。