被相続人の預金の引き出し行為に対する損害賠償請求の可否(令和5年12月14日)

【事案の概要】

Fの相続人5名のうちの4名である原告らが、長男である被告においてFの預金引き出した行為(以下「本件引出し」という)ついて、Fに対する財産管理契約上の善管注意義務違反又は同人に対する不法行為を構成するものであり、Fに生じたこれらに基づく損害賠償請求権を原告らが各5分の1の割合で相続したとして、被告に対し、原告ら各自につき損害金の支払いを求めた事案。

【裁判所の判断】

裁判所は、本件引出行為については、被告とFとの財産管理契約上の善管注意義務違反又はFに対する不法行為を構成するものと認めることはできないとした。

(東京地裁 令和5年12月14日)。

【争点】

1 本件引出しが財産管理契約上の善管注意義務違反又は不法行為を構成するか。(Fの個別的,又は包括的承諾があったといえるか)

(1)認定事実

(ア)被告による本件引出しと支出の状況

①墓地改修 約404万円②自宅の修繕約266万円③農機具の購入約697万円(トラクターの名義は、被相続人F)④Fの医療費等(約271万円)⑤公租公課(約19万円)。

(イ)引出行為のうち、Fの生前引き出された金額は、1645万円である。

これに対し、本件支出額(①から⑤)は、1658万円であり,本件引出行為より、①から④の支出の方が上回っている。また,本件引出額は,支出に係る請求書や領収書が発行された日と概ね近似しており,引き出された金額も支出額と概ね近似している。

つまり,引出額と支出額の対応関係を否定することができない。

(ウ)本件代替わり合意の存在

本件代替わりの合意は,それまで13代にわたり米農家を営んできたH家において,それぞれの代で長男が先代から財産を相続し,農業を承継してきたという伝統に沿うものである。

Fの跡継ぎとして,農業に従事してきた被告にいずれ被告が相続することになると考えていた預金の管理を委ねることは,自然な行為といえる。

(2)贈与よる特別受益となるか

本件代替わりの合意は,本件各口座の預金について被告の自由な処分を認めるものでなくあくまで合意の趣旨に沿った使用が認められるのみであるから,特別受益とはいえない。

(3)以上によれば,本件各支出行為は,Fの承諾に基づくものと言える。

                         

【判決のポイント】

贈与による特別受益かの考慮要素として,贈与を受けた者が自由に費消できるかどうか、贈与を受けた者が財産的利益を得ているか等に該当する事実が示された判決でした。

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