自筆証書遺言、公正証書遺言の有効性16(令和2年8月13日)

【事案の概要】

亡Aの相続人である原告Ⅹらが、同じく亡Aの相続人である被告に対し、亡Aの5通の各自筆証書遺言(本件遺言1ないし5)は、いずれも作成時において亡Aに遺言能力が無かったとしてその無効確認を求めた事案である。

亡Aは、平成24年から27年にかけて5通の本件遺言書を作成したが、認知症の症状があらわれ、平成29年には補佐開始の審判を受けたものの、同年の鑑定書でも混合型認知症の程度は軽度であるとされ、5通の本件遺言書の内容もほぼ一貫していた。

本件遺言書は有効か。

【裁判所の判断】

裁判所は本件遺言書1ないし4が無効であることの確認を求める部分を却下し、本件遺言書5の遺言無効確認請求を棄却した(東京地裁 令和2年8月13日)。

【争点】

本件各遺言書作成時における亡Aの遺言能力の有無

1 前提事実

(1) 亡Aは、平成15年9月29日に本件公正証書遺言1を、平成20年1月21日に本件公正証書遺言2を作成した。

亡Aは、平成24年2月9日本件遺言書1を平成26年3月13日には本件遺言書2を、平成26年11月6日には本件遺言書3を、平成26年12月11日には本件遺言書4を平成27年7月12日には本件遺言書5を作成した。

なお、亡Aが本件各遺言書を作成したのは、被告が亡A方を訪問するたびに、遺言書は最新のものが有効であるために作成して欲しいと懇請したためである。

(2) 亡Aは、平成26年7月3日、MMSE検査を実施したところ、17点との結果となり、アルツハイマー型認知症との診断がされた。

その後、亡Aは、平成27年10月22日、再度MMSE検査を受けたところ、MMSEは、21点となった。

同年11月17日頃、東京医科大学病院の医師により、亡Aについて認知症の進行があったとして、高度のアルツハイマー型認知症との診断がなされた。

(3) 平成29年3月9日、亡Aにつき成年後見開始の申立てがなされ、亡Aについて精神上の障害の有無、内容及び障害の程度につき鑑定が行われた。

平成29年5月2日付の鑑定書(本件鑑定書)によれば、亡Aは、混合型認知症を有しているが、その程度は軽度とされ、自己の財産を管理処分するには常に援助が必要であり、今後認知症状進行する可能性はあるが、改善する可能性はないとされた。

同年7月18日付に東京家庭裁判所は亡Aにつき保佐開始の審判をした(本件鑑定書に基づき、後見相当とは認められなかった)。

2 裁判所の判断

「 亡Aについては、本件鑑定書において、混合型認知症を有しているがその程度は軽度とされており、亡Aの混合型認知症においても、症状は進行することはあっても改善する可能性はないことと併せて考慮すれば、本件鑑定書作成時より前の本件遺言書5作成時ないしはそれ以前の各遺言書作成時においても亡Aの遺言能力に問題は認められない。」

「 また、本件各遺言書は、その作成時期が異なるにもかかわらず、本件駐車場については本件各遺言書全てにおいて、Iビルについては、本件各遺言書2ないし5において、いずれも被告に相続させるとの内容で一貫しており、本件各遺言書作成時亡Aの意思であったことが認められる。」

【判決のポイント】

本件において亡Aについての認知能力を示す資料として、MMSE検査結果や医師の診断書、成年後見申立時に作成された鑑定書が存在します。

ただ、これらの客観的資料のほとんどが、亡Aの最後の遺言書である本件各遺言書5が作成された後に作成されたとの点が特徴的であると考えられます。

本件の裁判所は、亡Aの遺言能力の有無の判断について、客観的資料のなかでも、本件鑑定書や、作成時期が異なる複数の遺言書の記載内容の一貫性を重視したと考えられます。

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